その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
赤の王族と面会を
睡眠不足のまま、約半日も歩き続けた。ひきこもりだったわけでもないけど、道無き道を半日も歩くことは過酷なんだ。是非とも解っていただきたい。
そして今、ちょっとした感動と、なんかものすごい絶望感に打ちひしがれていた。
「・・・ここが、城?」
「?何処からどう見ても城だろう?」
そうだ。あの西洋ファンタジーに出てくる城そのものだ。そのものなんだけど・・・
そんなもの、一度たりとも見たことないんだぞ!
思っていたよりもずっとでかくて、激しい赤色のレンガで造られているので、日本の城とはかなり違う印象だ。屋根は深い紅色で、ちょっと毒々しさも感じる。この世界では芝生も赤いので、とにかく真っ赤に見えた。門はさすがに黒いものの、門の奥のガーデニング兼トンネルは、蔓だからなのか真っ赤に染められている。
とにかく、視界が全部赤一色になった錯覚に襲われるたたずまいだった。形は城だけど、これを城と呼ぶのか、テーマパークと言うのか、俺には判断が付かない。
「兵志願の非能を連れてきた!女王にお目通り願う」
「へ?」と思わず声が出る。服部が振り返って確認してきた。
「何か違ったかい?」
「いやっ!でもただの一般兵志願が、王様やら女王様なんかに謁見なんてできんのか?」
俺はまっとうなことを言った。変なことは言ってないはず。王様・女王様はそれくらい上の、まさに雲の上の存在ってやつのはずだろ?
しかし、服部には笑うどころか呆れられ、愛川すら笑わずにハトが豆鉄砲食らったような顔をしていた。
「君は本当に常識がないな」と要らない前置きをしてから、帽子をかぶり直した。説明したりするときに帽子をいじるのが、こいつの癖のようだ。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷