その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「お兄さんはさ、なんでトランプなんかになりたいんです?」
「え・・・、ああっと・・・」
変なことは答えられない。服部もいるし、完全なキラーパスってやつだ。・・・多分。
「赤の方が優勢だからに決まってるでしょう」
俺が答える前に、打海の質問自体が間違いだったかのように、服部が言ってくれた。それに乗じておこう。
「そう、それ。どうせなら優位な方で戦いたい」
冷や汗が止まらない。
思っていたのと違ったのだろう。打海はぽかんとしていたが、ふいににやりとする。
「新勢力について、下剋上を狙うのも楽しいと思いますけどね」
「し、しんせいりょく?」
蘇生力しか出て来ない。ゲームのし過ぎか?幸い、服部も思い当たる節がなかったようだ。
「なんだい、新勢力って?」
「そりゃ決まってる!アリス派さ」
やっと漢字変換出来たけど・・・お、俺が新勢力なの?
あんぐりと口をあけてしまったが、服部も驚くぐらいの内容だったらしい。彼もまた、目を丸くしていた。けども打海は平然と話を続ける。
「おいらはその方が楽しいですね。是非協力したいと思っています」
「下らない夢物語を・・・」と、ぎりぎり聞こえるくらいの声で吐いた服部の悪態を、敏感に打海は拾う。
「もう夢物語なんかじゃないんだって」
「もう?」思わず聞き返してしまった。打海は頭をなでてもらった猫のように、きゅっと目をつむって笑う。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷