その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「どういう意味だい?」
にやぁと、不気味な笑みが打海の顔に浮かぶ。夜この顔を真正面から見たら、絶対寝れなくなるぞ。幸い今は横顔だけど。
「同じ質問をしよう。帽子屋は何処の所属だっけ?」
「ふざけてるの?」
「根っから真面目な質問さ」
いぶかしげな顔をしてから、「赤だよ、赤」と面倒くさそうに答えた。俺ですら知ってる情報だ。「知ってるだろ」と言わんばかりの言い方でもあった。すると打海はごろりと寝転がる。
「赤は戦争できない。『赤と白に属する者は夜の闘争をするべからず』なら、貴殿が銃でおいらを傷つけること自体、『契約』違反だ」
頭が良過ぎる会話で、おつむの弱い俺にはきついよ?
それでも服部には理解できたらしい。少し離れた位置にいる俺の耳にも届くくらい大きい音で舌打ちをした。どうやったらあんな大きな舌打ちができるんだろうな・・・。
ステッキを腕に掛けると、再び木のところまで戻って座り込んだ。帽子を脱いで、銀色の髪をバサバサと振る。星の光を反射してキラキラと光った。白髪と銀髪って違うんだなぁ。
立てかけたステッキの頭に、シルクハットをかぶせた。手品のように、ステッキが帽子の中に吸い込まれる。
「で?知ってるのかい?」
「残念ながら、本当に知らないね。おいらもまだ探しているところさ」
打海は俺の顔を見て、にやりと笑う。本人が知らないと言っているのでそれを信じれば楽だけど、ばれてる気がしてならない。乾いた愛想笑いだけ何とか浮かべた。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷