その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「あー、駄目だ。もう頭壊れる」
「え?頭って壊れるのか?」
この表現はこの世界では使われないようだ。俺は「破壊はしないから大丈夫」と一応伝えておく。すると彼は安堵の息を吐いた。迂闊な発言ができないじゃないか。
確認と整理の時間を少しもらってから、次の質問に移る。
「で、能力ってのは?」
「能力?」
「言ってたじゃないか。俺が『アリス』の能力の持ち主だって」
それで彼は思い出したらしい。少し考えてから、たどたどしく言った。会話を続けて行くとかなり長くなるので、説明だけ書かせてもらう。
能力ってのは、様々な条件はあるものの、要は超能力の事らしい。この世界のすべての人が持っているわけでもなく、それどころか数えるほどしかもっていないのだそうだ。能力者達には、同じ能力者の容姿や能力の情報が何処からか発信されてくるのだそうで、おかげで誰が何の能力を持っているのかバレバレなんだとか。
「それって、メールとか?」
「めーる?なんだそれ?」
判明、この世界にメールはないらしい。彼はまた頭を悩ませてから、とても抽象的に言った。
「こう・・・頭に流れてくんだよ。写真?みたいなのが・・・」
よくはわかっていなかったのだが、とりあえず電波的なものらしい。どうせ異世界なわけだし、仕組みを事細かに聞いたところで通じない理論を理解できると思えないしな。それでも俺はふと気付いた。
「そうか、だから俺がアリスだって解ったんだな」
「おうよ」
さっと理解できたことが自分で嬉しくて、ついそう言ったのだが、彼はさらりと肯定した。肯定を受けてから、俺はハッとする。
「・・・あんた、能力者なのか?」
「え?あ、そっか。アリスは知らないんだもんなぁ」
そう言うと彼はすくっと立った。そして俺を見下ろしながら、自分を指す。
「オレはグリフォンの力を持ってるんだ。俺しか俺の友達のところに行けない理由はそこにある」
グリフォンと言えば、あの半鷲半獅子の架空の生物だ。想像力の貧相な俺にとってはなんだかカッコいいイメージがあって、こいつと見比べてつい納得してしまった。グリフォンに負けたのなら、俺もあきらめられる。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷