その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「・・・あんた、変わり者だって言われない?」
やっべ!言っちゃったよ!思わずポロリとこぼれ出たよ、超失礼な言葉が!絶対気ぃ悪くしてる、絶対撃たれる!
・・・かと思いきや、服部が驚いて顔でこちらを見ており、打海が腹を抱えて隣でゴロゴロと転がり出した。こいつも笑い上戸か!
「そりゃそうですよ!イカレ帽子屋って言われているくらいですからね!」
打海はたまに丁寧語になるらしい。
それはともかくとして、イカレ帽子屋って酷い言われようだな。
・・・あれ?
ふと、頭の中を幼いころの記憶がよぎる。イカレ帽子屋って、何かにいなかったか?考えてみればそうだ。三月兎も眠り鼠も聞いたことがある。なんだっけ、何の作品だっけ?
うんうんと唸りだした俺に、服部がステッキをつきつけてきた。あ、やっぱり怒ってるんだ。
「君も対外イカレてるだろう。常識知らずも酷いところだ」
それはバカって言わないか?
「イカレちゃいないでしょう、帽子屋がイカレてるって解ったんだから」
打海、そのフォローもどうかと思う。そして体勢を直せ。
蘇りかけた記憶を何とか呼び戻そうと奮闘する。その横で打海がぴょんと立ち上がった。その動作は何人か見ているけれど、彼の動きが一番身軽に見える。
「じゃ、自己紹介が必要っすね」
後にしてくれ。
そういう前に、彼が俺に握手を求めながらこう言った。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷