その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「アリスが来てるらしいのだよ」
え?
思わず上体を起こしてしまった。
「あ、驚いたね?まぁ、無理もない。何年振りだってレベルだし」
けらけらと笑っているけど、俺はそれどころじゃない。だってやばいだろ!こいつらの言う「アリス」は俺で、俺以外にアリスがいるとは思えない。冷や汗がとめどなく出てきて、体の芯が冷えてくるのを感じた。
「な、んで、アリスの情報なんかを?また、あんたの、きょ、興味、とか?」
寝転がっている余裕がなくて、胡坐をかくように座り直す。だけなのだが、どうにもうまく座れなくて、無駄に時間がかかった。明らかに挙動不審だし、言葉もボロボロだ。もうダメな気もしてきた。
あんなに酷かったにも関わらず、それも驚いたせいだと思ったようだ。本当に、こいつの修正能力には助けられる。
「命令だよ。赤も白も、王族がアリスの獲得に当たっているからね」
ね、狙われてる!宝亀が気にしていたのはこのことだったのか!
・・・待てよ?それならさっさと言って、城に連れて行ってもらったほうがまどろっこしくなかったのか?
「アリスを捕まえたら、何をするつもりなんだ?」
一応の確認で聞いておく。たぶんそんなにひどい扱いはないかと思うんだけど・・・
幸いこの質問は、非能力者であれば変ではなかったらしい。ひょいと立ちあがって、遠くから見下ろしてきた。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷