その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「トーヴだ」
知らなかった。どっちにしろ知らなかった。犬、猫、ネズミ程度の認識しかないから、確かにこれが「カピバラ」ですとか言われても解らないけどさ。
「で、このトーヴってのは、何なんだ?」
「忠誠心の高い生き物だよ。きっと君が瓶から出せば、刷り込みのように君に仕えてくれるだろう」
・・・こんな小さい生物が?
服部は歌うように説明を続ける。
「穴を掘らせりゃ世界一、忠誠心は天下一、攻撃力は劣るけど、素早さならば敵はない」
小さいのに、ずいぶんと高い評価がされているようだ。
感心して眺めていると、服部が帽子を被り直した。それからせっかく普通に戻っていた襟を、また立てなおす。だからそれは立襟のシャツじゃないって!
「さあ、情報提供に応じてくれるなら、そいつをやるよ」
上手い話には裏がある。イッパシの高校生の俺だってそのくらい知ってる。そんなに希少かつ役に立つ生物を簡単にもらえるわけがない。けど。
「俺がその情報を持っているとは言えないんじゃないのか?」
「ああ、知らないなら知らないでいい。ただ、君は知っている気がしてね。僕の勘だ」
何がどうなってそんな評価をもらえたのか解らない。けど、俺がこの世界において知っていることは少ない。知らないことなら知らないでいい訳だし、条件はいいかもしれない。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷