その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「ああ、『帰る』じゃなくて、『入る』って言ったのか」
一般兵志願程度が城に入れるか解らないけど、助かった。
「安心していい。僕らが連れて行って、城に入れないことはないから」
「は、入れるのか?」
一般兵志願者ってことは、まだ一般人だぞ?
「王族が城から出ることはないからな」
王族との面接があるのか。王様に会えるかどうかが要だから、そう考えるととっさとはいえ、いい嘘をつけたものだ。これなら確実に王族とやらに会える。
「ああ、そういえば」というと、彼は被っている帽子を脱いだ。何をするのかと思っていると、そこから小瓶を取り出す。何か入っている。
「一つ、情報提供を願いたい。答えてくれれば、こいつをやろう」
「・・・こいつって、何?」
眼鏡越しでも見えない。あんま度数がきちっと合ってないのかな?さいきん眼鏡屋も眼科も行ってないもんな。帰れたら調整しないと。
「ああ、羊元の所でも珍しいものだからな」
そう言って、ぽいっとそれを投げた。
中身をみると、小さな生き物が入っている。獣っぽいけど・・・
「何?」
残念ながら、俺は動物に強くない。犬だって猫だって、ほとんど同じに見えるもんなぁ。
服部は少し勝ち誇ったような、嫌味な顔で答えた。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷