その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「何してんの?」
愛川だ。服部も奥で止まってくれている。空はもう深緑になっていて、夜になったのかと気付いた。
「や、眠くなってきた」
眠くなって躓いた、ということにしたかったのだが、実に言葉足らずだと自分でも思う。これじゃまるで、唐突に寝たみたいじゃないか!
「じゃな」くて躓いたんだ、と言い直そうとしたら、すこし先にいた服部が戻って来るのが見えた。また笑われるのか?それともバカにされるのか?
「もう夜だしな。眠くなるのも当然かもしれない。聞いたら僕も眠くなった」
そう言って近くの木の根元に座り、帽子を目深にかぶり直した。腕を組んだまま動かなくなる。
「・・・怒ってんのか?」
「ううん。寝ただけだよ」
「・・・寝ただけ?」
「うん。夢野もそうだけど、服部も眠くなると寝ちゃうんだよね」
自由気ままな性格のようで。
すぐに立ち上がらなかったので、愛川は手を引っ込めて地面に真横に寝転がった。何か敷いたりしないんだろうか?ま、赤色の草も黒色の土も、香りは変わらないのでほっとするのは確かだ。
ふと契約の事を思い出した。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷