その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「あははははははっ!」
バタバタと足をばたつかせて愛川が笑いだした。いつの間にか、テーブルの縁に座り込んでいる。せっかく座ってるのに、足をバタバタさせるからまたスカートがはためいている。遅れて服部も笑いだした。いまさらだけど、俺はまだなんにもしてない。
「え?何?何が・・・」
「おーっし!条件達成だ!案内してやろう」
待て。何が起きたのか説明しろ。
そういう前に、愛川がテーブルから飛び降りて、くるくると踊りだした。服部が帽子を外すと、帽子の中から大量の紙ナプキンが流れ出す。この光景で今の質問をぶつける度胸はなかった。
帽子をかぶりなおして、服部がステッキを手にする。ずっと置いてあったものだが、どうやら彼の物だったらしい。
「さて、行こうか!」
「行こう、行こう!」
回転を止めた愛川が、ウサギらしくぴょんぴょんと服部の方に向かっていった。楽しそうに二人は草むらの中に消えて行く。固まったまま見送っていると、視線を感じた。夢野がじっとこちらを見ている。
「・・・何だよ」
「いや?いかなくてもいいのかなって」
ダメじゃないか。
「ちょ・・・ちょっと待て!」
慌てて二人を追いかけて、俺は草むらの中に飛び込んだ。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷