その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「あの・・・条件下げません?」
「途中まで案内しろってこと?」
そうじゃない!
でも、たぶん今のはわざとじゃない。こいつら、本気だ。自分たちの「公平」は、すこしも曲げるつもりがないなんて・・・。
恐る恐る「ちゃ、チャンスは何回?」と尋ねると、
「ケチなことを言うつもりはないさ」と平然と言われた。つまり、無制限なようだ。まだ少しは救いがある。
が、実は俺に逃げ道はなかった。
生まれてこの方笑いのセンスがあると、思ったことも言われたこともない。つまり、人を笑わせる才能に長けているとは、口が裂けても言えない。笑いのランクは低いようだけど、そんなの俺にとっては何の意味も持ってくれないんだよ!この辺だけは無駄に強気だ。
あきらめた方が早いかと思いもするけど、正直自力でたどり着ける気がしない。
悩んだ結果、承諾することにした。
「解った。その条件でやる」
「え?途中まででいいの?」
愛川の質問に、慌てて訂正する。
「いや、えーっと、元の条件でお願いしますっ」
危ない危ない。ここから二キロ先に城があるとしても、森の中を一キロ歩くのは至難の業だ。方向を教えてもらったって、目印教えてもらったって、今回見たく見失うのが落ちだ。実際、宝亀が言ってた、「行っちゃいけない方の城」の目印も、途中ですっかり見えなくなったし。
・・・そういえば、どっちの城に行っちゃいけないんだっけ?
なんだかとても大切なことだった気もするけど、全然思いだせない。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷