その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
寝ぼけ眼に悪いんじゃないかと思うくらい、ぐりぐりと強く目をこすってから口を開く。
「なにまたわけのわからないケンカしてるの?」
一番年下が一番まともなこと言ったよ、おい。この三人何なんだ?ていうか、何繋がり?兄妹?
むくりと席を立つと、思ったより身長が低かった。席を立つ、というよりは、椅子から飛び降りるっていったほうが正しいかもしれない。なにせ、ここに並ぶ椅子はいささか足が長いからだ。そのまま姿が見えなくなったかと思うと、テーブルの下から姿を現した。確かにテーブルの上を行くより行儀もいいし、ぐるりと回るより時間も体力の省けるだろう。その身長じゃなきゃ思いつかないけどな。
こちら側に来るなり、今まで放置されていた服部に近づいた。
「はっとり、またたおれてる」
「おっと、これは気付かなかった」
気付くだろ!なんで気付かないんだよ!
長い脚を乱暴にグルンと回し、器用なことにその勢いで立ち上がった。パンパンと服を叩き、夢野の方を見る。
「いや、いきなり皆が視界から消えて、空の色だけが広がったもんだから、何かの術かと思ったよ」
それこそ何の冗談だよ。呆れて思わず空を見上げた。いつの間にか時間がたっていて、黄色かった空は黄緑色になっている。この世界の夕焼けだ。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷