その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「待て。僕だって今、面白いことを思いついたんだぞ」
「えー、あたしのやつのほうが面白いよぉ」
お互いが本気ではない、遊び心満載の喧嘩が始まった。気付いてんのか?あんたらのそれ、はたから見たらただの痴話喧嘩だよ。犬も食わねぇよ。
ってか、どっちでもいいんだけどなぁ。
暇を持て余したので、食事を再開する。せっかく食べていいって言ってもらったのに、全然食べれてなかったからな。
フォークを手に取り、どれを食べようかと迷う。皿と皿の間に靴の後が見えたのは気になるけど、まあ、料理を踏んだわけじゃないからいいか。
ローストビーフっぽいものを見つけて、二枚くらいまとめてフォークに刺した。二枚一気に食べたい成長期なわけではなくて、単純に剥がせなかっただけだ。確かに成長期ではあるんだけどな。
大きく口をあけて食べようとしたとき。
「うるさいっ!」
と、叱咤の声が響く。びっくりして肉を落としてしまった。今制服一着しかないんだぞ!
声のした方向に切なげな表情を向ける。深く眉間にしわを寄せた夢野が、じっと喧嘩をしていた二人を見ていた。状況は説明するまでもない。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷