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その穴の奥、鏡の向こうに・穴編

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「普通が公平なら、誕生日以外を祝うことなんてしないじゃないか」
 うん。あきらめよう。理解できないとか、そんなかわいいレベルの話じゃない。考え方そのものが違うと言った方が、ふさわしいんだろう。
 目で不満を訴えながら、さっさと目的を果たすことを決意する。
「あのさ、城まで案内してほしいんだけど・・・」
 こんな狂ったやつらからどんな契約が求められるのかも解らないし、怖いは怖い。ヤンキーが視界に入った時ばりに、警戒心があふれ出る。いや、ヤンキーが視界に入る事態にあったことなんて、生まれてこの方ないんだけどさ。
 今度は椅子ごとひっくり返られた。派手な音がしたが、びっくりしたのは俺だけらしい。夢野は眠ったままだし、愛川はケタケタと笑っている。
 あまりの心配されなさに哀れさすら感じて、服部をのぞきこんだ。
「だ・・・大丈夫か?」
 倒れた体勢を直すこともせず、こちらに目を向ける気配もない。ただ茫然と空を見ていて、そこで初めて瞳が水色をしているのだと気付いた。
「いやはや、びっくりしたよ」
 大丈夫かどうかの返事がそれなのか?それともまた無視されたのか?聞き返そうか悩むのと同時に、立ち上がる手助けをするべきか迷う。あのままでいいのだろうか。
 もどもどしている奴を待っていてくれるやつだとは、もともと思っていない。立ち上がるそぶりもないまま、転がったコップを手を伸ばして拾った。