その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「なんだい、君はトランプ志望だったのかい?」
トランプ。聞いた記憶があるけども、何だったか解らない。いや、まあ覚えていないわけなんだけども。
ともかく、この反応はいいはずだ。そういうことにしておいた方がいいだろう。
「ああ、そうだ」
「そうかそうか!同胞志望だったのだね!それはすまないことをした」
見るも見事に豹変したな。さっきの「公平」はどうなったんだよ。っていうか、結局こいつらの言う「公平」って・・・
ここは意地を張らずに聞こう。
「なあ、お前らの言う『公平』ってなんなんだ?」
くるりと振り返った二人の顔を見て、聞いちゃいけないことだったとすぐ気付いた。あれだよ。天体に詳しい奴に「あれって何座?」って聞いちゃった時の感じだよ。こう、一度訊いたらそのあとしばらく勝手に説明される感じ。止まらないあの感じ。
夢野の方に助けを求めようと思ったけど、すでにもう二度寝をしていた。いや、三度寝か。ともかくこの三人の中に助けを求められる人間はいないらしい。初対面にはかなりきつい三人なのに・・・
案の定、とてもうれしそうな顔で、まるで舞台のように大げさなふるまいをする。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷