その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「ふむ。その考えは確かかもな」
「でしょう?普通なら契約しないもの」
思わぬところで契約が効果を発揮した。契約しておいてよかった。怖くてもしてみるものだな。
席を立って裾を直した服部は、胸ポケットから時計を取り出した。懐中時計を見る。
「・・・ている服部銀河だ。しがない帽子屋さ」
いきなり自己紹介をしてきたので、頭の方をすこし聞き逃した。平気だよな、何か大切なことじゃないよな。
今度は隣で反っていた分取り戻すように、少女がぴょんと跳ねかえった。びっくりして声をあげてしまった。二人がぎょっと見てきて、盛大に笑われる。失礼だぞ、こいつら。小学校の時に必ずいた、いじめっ子タイプだ。
さんざん笑った後、彼女は走ってユメノのほうまで回る。
「あたしは弥生だよ、愛川弥生ィ!」
そしてそのまま眠るユメノの手を持って、ぶんぶんと振らせた。起きないユメノがすごい。
「この子は夢野、夢野耶澄だよ!」
!!夢野は名字だったのか。そう言えば、ここの住人は、あまり人の事を下の名前で呼んでなかったな。鷲尾然り、宝亀然りだ。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷