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その穴の奥、鏡の向こうに・穴編

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「で?君は一体?」
「と、通りすがりの者だ。起こさない代わりに飯をくれると契約したんだ」
 少し説明上手になってきたか?俺。
 一人でテンションが上がっていると、いきなり肩に手を置かれた。顔の横に何かが来た気がする。男は隣にいるままだし・・・。
 そこで思い出す。そうだ。この子は二人の人間を待っていたっけ?
「きみ、きみ、今日は誕生日?」
 振り返る前に尋ねてきたその声は、無邪気なソプラノだった。
 ・・・ソプラノ?
「うわっ!」
 思わず手を払ってしまった。それから振り返ると、一人の女の子がいた。タータンチェックのスカートに、黒色のベストはまるで学校の制服だ。ただ、ワイシャツの襟を立てていたり、ドでかいリボンをつけていたり、兎の耳っぽいものが異様に長くついた帽子をかぶっている人は見たことがない。
 それにしてもこの子、さっき俺の肩にあご置いていたぞ。女子免疫がなさ過ぎて、離れた今でも思い出されて恥ずかしくなる。
 払われた方も、払ってしまった方も固まったまま時間が流れる。しばらくして、もう一度訪ねてきた。
「今日がハッピーバースデー?」
「いえ・・・ちがいますけど・・・?」
 もしかして、誕生日のやつのためのごちそうだったのか?誕生パーティーの会場だったのか?!
 しかし、その推測ははずれだったようだ。二人の顔はみるみるうちに明るくなっていき、手を引いて俺を立たせた。