その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
まあ、手をつける前でよかった。
振り返ると、攻撃的な銀色の光を放つ男がいた。何を持っているのかと思ったら、それは時計だ。俺が拾ったようなのと似ているが、色が違う。銀色の懐中時計だった。この世界では、懐中時計が標準なんだろうか?なかなかアンティークな世界観だ。
さらに髪の毛も銀色だった。だから、反射した日光がやっぱり眩しい。真っ黒なシルクハットをかぶっていてくれるおかげで、顔を認識できるレベルだ。
しかし、よく見てみるといろいろおかしい部分が出てきた。いや、可笑しいって言うのは失礼か。それでも、色合わせが派手すぎるんだ。
真っ赤なジャケットはいい。けれど、それに青色のズボンを合わせるのはどうなんだよ。しかもデザインが完全に二色のスーツを合わせたような感じだし。黄色のワイシャツも目新しいし、見える限りボタンは全て色が違う。紫色の紐ネクタイが、緑色のスーツ用ベストからもれている。
とにかく白の靴と真っ黒なシルクハット以外、どれもが極彩色なんだ。派手すぎて目が痛くなる。
顔も俳優レベルに整ってるのに、なんて残念な奴なんだ。俺みたいに中の中という面立ちからみると、ありがたいセンスだけど・・・
狂ったその衣装に呆然とすると、そいつはいきなり少女の方に歩いて行った。
「ユメノは寝てしまったのか。まったく接待が向いてなくて愉快だ」
向いてない仕事を割り当てられるこの子がかわいそうだ。っていうか、この子ユメノっていうのか。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷