その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「・・・そんなにお腹がすいてるのなら、交渉成立でいいじゃない。あたしももう、眠たさが限界だもの」
そう言って、突っ伏してしまった。とにかく起こしてほしくないようで、こちらも我慢するしかないらしい。
・・・契約なのは確かだ。この世界での契約の威力は何となく把握している。
契約だと言えば、文句を言われることもないだろう。
とはいえ気まずいのには変わりはない。周囲を確認して他に人がいないことを確認してから席に座る。目の前に並ぶのはうまそうなごちそう。うちじゃ、クリスマスだってこんなの食わねぇぞ?
しかし逆に、ここまであると悩む。どれを食べればいいものか・・・
優柔不断さからしばらく悩んだ結果、目の前にある鳥の丸焼に手をつけることにした。昔見た欧米のアニメでは、グルンとまわすともも肉が外れていた記憶がある。
手を伸ばしたその時。
「おや?客人が来ているよ?」
イケメンボイスってこういうことを言うんだろうか?鷲尾の声が低めのテノールだとしたら、その声は低すぎず高すぎずの理想的なテノールだ。声優でも、こういう声の人が多い気がする。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷