その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
入ってみると、すぐに無人ではないことに気がついた。右はじの席に、誰かが突っ伏している。体調が悪いのかと思ったが、それは動かない。人形かな?人間でも人形でも、ちょっとあの体勢でいるのに近づく勇気はあまりない。
ゆっくりと近づいてみると、またもや女の子のようだった。が、今までの女子たちの中でも一番幼い、小学校高学年くらいだろう。一人で何をしているんだか。もしかして、彼女が主催者だとでも言うのだろうか?
「こんにちはー・・・」と挨拶をしながら近づいてみるも、動きもしない。よく見れば息をしていない気もする。でも、ここまで近づいたらさすがに解る。間違いなく人間だ。ってことは・・・
「だ・・・だいじょうぶかっ!」
慌てて駆け寄って肩を引く。と、勢い余ってそのまま彼女はひっくり返ってしまった。
いや、虐待じゃないよ?これは不慮の事故だ。暴力をふるったわけでもないんだって!
必死で言い訳を考えているのに対し、彼女はむくっと起き上がった。
「もっと優しく起こしてよぉ・・・って、あれ?どなた?」
「え、あ、いや・・・通りすがりの者デス」
必死すぎる言い訳。下手過ぎる言い訳。さっきの自惚れていた自分を殴りに戻りたい。やっぱり駄目です。俺は頭が弱いんです!
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷