その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
ガサガサと匂いを辿って行くと、ぐるりと円状に視界が開いた。人工ミステリーサークル張りに綺麗な円で、ちょっと違和感がある。
でもまだそんなのましだ。目の前に広がっているのは、ただの円形ではない。
パーティー会場だ。まごうことなきパーティー会場だ。間違いない。言い切れる。
長いテーブルには前後左右対称に豪勢なごちそうが並べられ、ほかほかと湯気を立てている。その上には巨大な横断幕が立っていて、そこには大きく「パーティー」と英字で書いてあった。いくら馬鹿な俺だって、パーティーくらい読めるんだ。
ただ妙なところもあった。
人が誰もいないのだ。椅子の数はぱっと見で二十脚くらいありそうだし、食器もコップも全部同じ数がきれいに並べられている。なのに、誰もいないんだ。もちろん人がいないのだから、料理に手もつけられていないし、皿も使われていない。
これからなのか?と、一瞬思ったけど、やっぱり客がいつ来るかわからないのに、主宰がいないのもおかしい。迎えに行っているのかもしれないけど、この世界でそんなことがありうるのだろうか?
まあ、一つだけ可能性がないわけでもない。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷