その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
カチャリ
・・・そうだった。いまさら思い出した。なんでこんなところに迷い込む羽目になったのか。あのコスプレ美少女に、金の懐中時計を返すためだ。今思えば、決してコスプレしていたわけではないようだけれど、もう印象付いてしまったのでどうしようもない。ともかく、これを返さなければ、いくら帰れたとしても苦労が水の泡だ。あの時三人に聞いとくんだったな。
ぐ〜・・・
本日二回目。今まで言ってこなかっただけで、何も食べていなかったわけではない。宝亀や鷲尾が、代わる代わるご飯となる木の実とか果物を持ってきてくれた。味もおいしかったし、みずみずしかったので水分補給も出来ていた気がする。が、育ち盛りの男子に木の実や果実のみの食事というのは、いささかいただけない。いただけないって言うか、こう、足りないんだ。肉とまではいかなくとも、せめて魚とか、力の付く料理が食べたい。贅沢なのは解っているけれども!
ぐ〜・・・
食い物の事なんて考えてるから、余計腹が減ってきた。ともかく腹が減っては戦は出来ぬというじゃないか。何か食おう、なんか。
不意に、いい香りが流れてきた。何だろう?でも、なんだかとてもいい匂いだ。匂いのする方を見てみると、白い木々の間をくぐって流れてきているらしい。昔見た子供向けのアニメのように、その匂いに導かれていく。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷