その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「羊元が安全だから、赤の連中に会っても大丈夫」という考え。実際あれは、持っている考えじゃない。
頭に残っているのは、公爵夫人宅の武器コレクションと、謎のバカップルがいた、トランプと呼ばれる兵士の殺傷現場だ。もしあの武器を向けられたら、あのトランプと同じ末路を迎えてしまうに違いない。それだけは、何としてでも避けたい。
つまり、俺の持っている実際の考えはこうだ。
「赤だろうと白だろうと、ごまかせなければ殺される」。油断大敵ってことだ。
そう頭の整理がつくと、今度は不安になってきた。
上手く王族と交渉できるのだろうか?許可証なんて貰えるのかな?もらえたとしても、無事元の世界に戻れるとは限らない。もし日本に帰れなかったら?アメリカに返されるのだって、英語の苦手な俺にとってはアウトな話だ。
不安はどんどん募り、プレッシャーとなってのしかかってくる。命がけって言葉を舐めてた自分が羨ましい。
マイナス思考が余りにも膨らむので、落ち着かせるためにポケットに手を突っ込む。昔から、とにかく落ち着こうとするときにこうする癖があり、逆にこれをすると落ち着くことができる、便利な技だ。特技ともいえよう。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷