その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「助けが必要だったら、また使ってくれ」
なんだよその八方ふさがりは。こっちは助けが必要になるような目に遭うのも嫌だし、この羽根を使うのも嫌なんだぞ。後半はわがままにカウントされるのかもしんないけどさ!
でも一応お礼を言って受取って置いた。この羽根を使う方がましな事態に遭遇するなんて考えたくもないけど、あり得ない事態じゃない。だってこの世界は、戦争があるんだから。目の前で銃弾が飛び交ったり、「刀慣らし」でもされていたら、きっと気持ちも変わるはずだ。想像しただけで身震いがするほどだしな。
鷲尾の羽根を鞄にしまっていると、もう一度宝亀が念を押してきた。
「いいか、白だ。間違っても赤には行くな。命の保証がない」
「大丈夫だって」
鞄のチャックを閉めてから、その鞄を肩にかける。背負ったのは途中からだ。初めの方は普通に持っていた。ま、その辺の訂正はいいか。
「羊元だって赤なのに、殺そうとはしないだろ?」
「あたしはね。殺したところデメリットはないし、有望だから赤についたってだけさ。公爵夫人やらはいかがかねぇ」
鷲尾を捕えていた時点で想像はついてたけど、公爵夫人って名前と人柄が一致してない気がする。なんでそんな優雅な呼び名なのに、そんな凶暴な性格なんだろう。
なにはともあれ、羊元を含む三人に見送られて、俺はその場を後にした。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷