その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
毎度おなじみ、すこし前を復習しようか。
一人で行くことになったので、はじめてのおつかい並みにドキドキしてくる。俺の初めてのお使いっていつだったっけ?
「有須、あの赤い屋根は見えるか?」
見える、見えます。黄色と青色の間に赤いとんがり屋根が見える。描写的なものじゃなくて、こう、確実に槍みたいにとんがってる。絶対に先っぽに何か刺せる。百舌(もず)が早贄しに来そうだし。
「あれは赤の城だ。あそこには行くな」
「え?」
「赤の王族は利己的だからなぁ・・・」
最悪の王様だな。ま、戦争起こすくらいだから当然か。でもそれじゃあ・・・
「どうすんだ?」
「白の王に頼め」
どこにいんだよ。
口に出す前に、宝亀が唸る。
「白の城は・・・」
「白い屋根だよ。白い屋根を目指せば着くものさ」
脇で聞いていた羊元が毛糸玉を転がしながら教えてくれた。まるで玉ころがしだな。まあ、白い屋根を目指せばいいのか。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷