その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「どうでもいい者に何を言われようと構わん」
さいですか。やっぱり俺には解らない感性だ。騎士は腕がたつだけじゃなく、精神も人並み外れて強いらしい。見習いたいものだね。柳崎の臭いに平然としているのも凄いと思う。
「他に用は?」
「あ、アリマセン」
おどおどと答えたことを嗤ったのか、フンと鼻を鳴らす。それから向きを変え、大軍を引き連れて白い森に溶けて行った。
時間がたってからいらいらし出す。さっきの、わざわざ笑う必要なくねぇか?イケメンって俺にとっては「いけすかないメンズ」って感じなんだよな。イケメン=性格悪いっていうの?願望が入ってるのくらい、百も承知だ。
一群が去ってから、宝亀が走ってきた。あの大きな盾を背負ったまま、よくあの速さで走れるな。
感心していると、まさかの距離まで近づいてきて、肩を掴んでぶんぶんとゆする。酔う酔う。酔うからやめてくれ。
「有須っ、無事か?」
鼻先がぶつかってる気がしなくもない距離でみた顔は、不安か心配か解らないが青ざめていた。っていうか、二十センチ以内って、恋人距離の顔の近さじゃね?あ、そう思ったら少し恥ずかしくなってきた。
彼女の手から何とか逃れ、無事なことを告げる。途端その顔に色味が戻り、いつもの表情になった。うん、この方が宝亀っぽい。しっくりくるな。
そういえば、羊元もあの男を警戒してたな。来るだけで脅し、みたいなことを言ってた。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷