その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「ちょ・・・あんた!」
呼び止めると振り返った。不思議そうな顔をしている。口に出さなくても言いたいことは解る。「何の用だ?」ってことだろう。
「羊元がひどい事言った。悪い」
俺が謝る筋合もないんだけど、一応ね。見ていて何もしてなかったわけだし。罪悪感は否めない。
すると、騎士は嗤った。
「羊元の部下か?」
「いや、一時的な協力者だけど・・・」
「協力者?」
「契約の」
「ああ、なるほどね」
「契約」の言葉の威力を知る。こういう面ではほんと便利だな、言葉一つで何でも理解してくれるって。
体ごとこちらに向き直った。今までは見返っている体勢だったのである。
「ま、仲間のフォローを行うのは当然だろう」
仲間意識があれば、フォローも認可されるのか、この世界でも。ちょっとした共通項にほっとする。
が、それもつかの間。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷