その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「なぁ、これって契約じゃねぇの?」
「ああ、もちろんただとは言わん」
何故か白の騎士が答えてくれた。気付けば、奥から一人の兵士が巾着袋のようなものを持ってくるのが見える。白の王って日本家屋の中にいるんじゃない?
「『羊』が今最も求めているという、『クッキー』だ」
・・・クッキー?って、あのクッキーのこと?毛糸を黙々と編んでいた羊元から考えると、クッキーくらい作れそうなもんだけど。
少し悔しそうに、それでもほしかったのだろう。羊元は兵士の手から巾着袋をふんだくった。中を見て鼻を鳴らす。
「本っ当にあたしゃあんたらが嫌いだよ!」
捨て台詞を残して、店の方へ引っ込んでいく。真正面から誰かに嫌いと言うのは凄い。が。
見送っていた視線を、騎士の方へ戻す。と、また笑っていたのだ。嫌いとか言われたのに!
ぎょっと見ていると、相手は俺の方に向き直った。
「失礼した」
「ああ・・・いえ、お気になさらず」
「それは良かった」
さわやか、なのだろうか?俺には腹黒く見える。そう見える自分が歪んでいる気もするけども。
騎士はそれだけ言うと、背を向けて歩き出した。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷