その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「あんたが派遣されてきたところで、平和的も何もないだろうよ」
攻撃的な言い方だった。効果音をつけるなら「ケッ」って感じだ。とても友好的とはいえない。さっきの呟きといい、今の言葉といい、どうもこの白の騎士って男はすごいらしい。そしてそれはきっと、かなり凶暴な意味で、だ。
敵意をいなすような、柔和な笑みを浮かべてくる。俺なら確実にひるむだろう目つきも、全く相手にしていない。気にしていないって言ってもいいくらいだ。
笑い方とかを無視しても、この男はなんというか・・・、優男っていうの?草食系?や、俺も悲しいかな草食系だから、同列するのはおこがましい気がする。俺は女じゃないから、どういう系っていうのが正しく分類されるか解らないけど、きっと少女漫画に出てくる王子様的な感じだ。あ、騎士様か。
白の騎士は恭しくお辞儀をした。女子から見たらときめくのかもしれないけど、男の俺から見ると、すこし厭味ったらしい。
「寛大な配慮、感謝する。我が王もさぞ喜ばれるだろう」
「あの男の喜ばないことをしてみたいものだよ」
白の王はポジティブなのか?それとも笑い上戸だったりして。
白の騎士が首を上げると同時に、後ろからぞろぞろと兵士たちが現れた。柳崎についてきただけでもあれほどいたのに、まだこんなにいたのか。
戦意は本当にないようで、彼らはバラバラとくたばっている同僚を手早く運んで行く。どこに連れて行くのかとこっそり見れば、奥にトラックがあった。そりゃ人数足りないかもしれないけど、積み荷用トラックって。そこだけ妙にリアルかよ!
あ、そう言えば。
剣呑な眼差しで敵意ムンムンのお隣さんに、こっそりと尋ねる。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷