その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
終わった。
思ったというより、確信したとか察したとか言った方が正しい。
人生短かったな。高校生で死ぬとか、今朝まで思いもしなかった。もっと将来を想像し、小学生くらいまでは夢も持ってた気がする。中学生まではもってたっけか?
人生の終わりには本当に走馬灯が見えるんだな。
「柳崎っ!」
低い声で、現実に帰ってきた。あれ?生きてる。ゆっくりと顔を上げると、もう半分くらいまで下された拳に急ブレーキが掛けられていた。鷲尾か?いや、でも鷲尾の声はあそこまで低い声では・・・
「『白の騎士』だね。あいつが直々に来るとは、珍しいこともあるものだ」
羊元の視線を追うと、黒い脚の向こう側に、白い軍服の男がいた。人間版柳崎の制服と似ていることから、きっと上位の軍人なのだろう。くたばっている軍人たちとはすこしデザインが異なる物だ。
ってか、この世界にまだ男がいたんだ。ちょっとほっとしたぞ。
白の騎士は俺たちの前まで歩いてくると、深々と礼をした。
「今回の件は王の冗談を真に受けた、柳崎の暴走だ。是非とも多めに見ていただきたい」
戦争しているとは言うものの、こういうところは普通なのか。でも、命の危険を水に流せとはずいぶんと難しい話だ。この世界ではこれが当然なのか?
そう考えたが、見ずとも嫌悪感が伝わってくる。どうにも感性は一緒らしい。
「こんな目に遭っておきながら、許せって言うのかい?」
「願うのは平和的解決であるゆえ」
・・・あれ?これって契約?
ルールが掴めずに、交互に二人を見た。お互いが相手を凍らせるような視線を向けている。とても聞ける状態ではない。っていうか、超怖ぇ。
しばらくして、羊元がため息をついた。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷