その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
目の前に、真っ黒な柳崎の足があった。確実に放った風がぶつかっている。向こうからこちらが見えないのと同じく、こっちからも顔は見えない。が、間違いなく気付かれただろう。
柳崎の足がゆっくりとこちらを向く。ほら、ばれてる。ばれちゃってる!
「何してくれたんだい!」
「わ、悪いっ」
怒られてしまった。俺が思わずオールを地面に刺すと、また橙色に光り出し・・・
「・・・戻っちゃった」
俺の手に卵が返ってきた。これで怪力は無効化できるようになる。でも。
言うまでもない。今無効化できても、何の意味がないのだ。だって元の力が違うんだもの。クジラ五匹をジャグリングだぞ?無効化したって無理だって。
気付けば、呟きを漏れ聞いた羊元が、ぽかんとした顔でこちらを見ていた。
「ば・・・バカなのかい?あんた!」
そうです。バカなんです。でも今回は、本当知らなかったので許して。
もう一度手で挟んで伸ばせば、またオールになる。そう思ってやろうとするが、近くに黒く尖った爪を持った手が勢いよく突っ込んできた。ぎりぎりぶつからなかったけど、命の危機を感じるほどの距離だ。卵が転がり落ちる。やばい。
拾いに走るのと、第二撃が構えられるのが、ほぼ同時だった。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷