その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
大切なものを見つけることは、それこそ大切なことなんだ。
「何してんだよ!」
鷲尾が呼んでる。さっきまでの余裕はどこへやら、結構焦っている模様。でも。
「悪いっ!やっぱ契約は最後まで守らなきゃ」
ただの建前だ。それでも助ける理由にすることができる。契約しか存在しなくても、手助けできる理由だ。
オールを片手に持ち、えぐい匂いのする方へ走る。
正直に言うと、まだ気になるんだ。あの暴れている理由。ただの力加減がおかしくなったとか、出来なくなったとか、そういうのじゃない気がする。
ふと、頭に光景がよぎる。あ、そっか。
駄々をこねている子供みたいなんだ。無駄に攻撃的っていうの?そんな感じ。
この辺はまだ深い森だ。木々より高い位置に顔のあったら、俺たちは見つけられないだろう。だから、やたらめったらに動いてる。どれかが当たるだろうって感じか。だからそこまで慌てる必要がなかった。
でも、人間だった時に俺たちの居場所はばれている。柳崎はこちらに一直線だ。だから二人は慌てだしたんだな。
件の羊元の店は柳崎の線上にはないが、倒れる木々に押しつぶされそうだ。また、ちょっとでも向きを変えられたら、踏みつぶされそうに見える。気は抜けない感じだ。
チョークみたいな木から、折られるたびに粉が出る。これも「おが屑」って言っていいんだろうか?ハムスターのケージに敷かれるようなあれと同じには見えないけど。大きな足がドンと動くたびに風が吹いて、粉がぶわっと纏いつく。むせそうになり、すこし息をとめた。眼鏡に白い粉が付いて、視界も悪くなる。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷