その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「アリス、別の姿がある能力者もいるんだよ」
飛ばされて座り込んでいた鷲尾が、すっと立っていた。眉間にしわが寄っていて、こんな不快そうな表情を見たのは初めてかもしれない。いつも飄々としていたからな、こいつ。
それにしても、別の姿とはいかに?
鷲尾にそれを尋ねたのに、今度は羊元から返ってきた。
「あたしらは化け物を宿してんのさ。その化け物の持つ能力を借りてるってことだね」
さりげなくあたしらって言ったぞ。こいつらも「別の姿がある能力者」ってことか。
「封印してるってことなのか?」と推察してみれば、
「そんなファンタジーなものないよ」と、鼻で笑われた。俺にとっては来たときから十分ファンタジーなんだけどな!RPG甚だしいんだけどな!
「あたしたち自身が、化け物の姿を変えた状態ってことさ」
「・・・狐とか狸みたいな?」
「化かし合いじゃないよ。この姿も化け物の姿も、どちらも真の姿なわけだからね」
つまりはなんなんだ?イメチェンみたいな感じ?いや、そんな簡単な話じゃないと思うんだけど・・・。
もう駄目だ。放棄する。バカに解る内容じゃない。とにかく今の状況を考えなきゃ。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷