その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「まさか・・・!」
あの宝亀が恐怖していた。え?何?そんなにやばいことが起きるの?
俺は宝亀に庇われて、鷲尾と羊元が駆けだした。その様子に、彼女がにやりと笑った気がしたのは気のせいだろうか?近くに落ちていた本に触れると同時に、大きな声で叫んだ。
「吾は『壊す者』なり!」
途端、柳崎の体が光りだした。それを中心に強い風が吹いてくる。柳崎の方に向かっていった二人も、押し返されて戻されてきた。
眩しすぎる橙色は、うねうねと動くと増長してぐわんと上に伸びあがる。え?柳崎さんは?どうなったの?
「奴の忠誠心を甘く見ていたか」
「忠誠心?」
おおよそ普通の男子高校生が聞き慣れない単語に、思わず聞き返してしまった。時代劇好きとかならともかく、少なくとも日本史四十三点を取るやつには馴染みがない。それに誰への忠誠心なんだ?ああ、そっか。
「それって、アキ・・・なんとかって人への?」
「そうだ」
「その人って何なんだ?柳崎のペアか?」
パンっと光がはじけ、中から竜が姿を現す。うっわ、ド級のファンタジー来ちゃったよ!宝亀が腰にさしていた細剣を抜き、ずっと背負っていた巨大な盾を初めて下した。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷