その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
その時、視界の隅で柳崎が立ちあがった。死んでなくてよかったと、心の底から安堵する。でも、柳崎は俺と逆の思いのようだ。
「こんな無様に負けるなんて・・・」
いや、仕方ないって。多勢に無勢だし、ほら、俺とか完全にダークホースじゃん?油断しても仕方ない相手じゃないっすか。
「僕は負けられないんだ」
・・・不屈は鷲尾の売りじゃないのか?
思いを口にしたときとは違い、決意はそこそこに大きい声だった。だから残りの三人も、柳崎に気付いて振り返る。周りには死屍累々じゃないけども、くたばっている仲間の軍人。太陽はやっとこさ南頂を通り過ぎた頃合い。待ち望む夜は遠い。
そんな中で、満身創痍な柳崎が、堂々と背筋を伸ばした。仁王立ちってやつか?
「僕は、アキマサのために負けられないんだ!」
そう叫ぶと、こちらをしっかりと睨みつけてきた。この状況で、どうしてあんな目ができるんだ?どうしてあんなに強気なんだ?
っていうか、アキマサって誰?柳崎にもやっぱりペアがいるのか?
のんきな疑問に誰も答えてくれない。それどころか、みんな蒼白している。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷