その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「あんた、よその世界から来ただろ」
ヨソノセカイ?俺の頭がフリーズした。どういう意味だ?だってこいつが書いたのは日本語で、話しているのも訛りすら見られない日本語の標準語で、日本じゃない要素なんてどこにもない。俺をだまそうとしてるのか?いや、だまそうとするメリットがない。鎖はしっかりと繋がれていて、逃げられないのだから。
俺はじろりと彼をにらんだ。
「・・・イタイのは格好と趣味だけにしとけ?」
そう、こいつの頭がちょっとアレだとしか思い至れない。頭までワンダーな人だったら、この言葉すら通じないかもしれないとも考えられるけど。
怒られるか傷つかれるかの二択だと思ったのだが、彼の反応は違った。大仰に笑いだして、それから俺の頭をぼすぼすとたたくように撫でたのだ。
「今回のアリスは面白いなぁ。いや、馬鹿なのかな?」
「馬・・・ッ!」
いらっときたが、馬鹿なのは確かなので、悲しいかな言い返せない。下唇を噛みながら怒りにこらえていると、彼は先ほど使った枝をパキリと折った。年輪は見えず、まるでチョークのようだ。俺の意識を自分に向けるための行為だったらしく、彼は小さい子に諭すようにやさしく言った。
「君は、何処から来たのかな?」
「何処ってだから日本から・・・」
「そうじゃなくて。日本とか言われてもわからないし」
「じゃあ、なんて答えれば・・・」
かなり感情的になっている俺に対し、それを受け流すように空を指差した。追って空を見上げて、空が黄色であることに気付く。なんだかやっぱり気持ち悪い。空を見た俺を不思議そうに見て、彼は飄々と口を開いた。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷