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その穴の奥、鏡の向こうに・穴編

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 結果が出る前に、彼が笑いだした。
「今時『赤』『白』を知らないとかッ!」
「悪かったな!どういう意味かわかんねぇけど、そういうのとは無縁で生きてきたんだよ!」
 馬鹿にされて不機嫌になった怒鳴り返した言葉は、ただの火に油を注いだだけだった。彼の笑いの勢いは増す一方で、俺の不快感をよりあおる。
 もうこの場を後にしようと立とうとしたとき、彼の笑いが唐突に止んだ。あまりに妙だったため、俺は手をついて体重を足に移動しようとした妙な恰好のまま止まってしまう。彼はぶつぶつと一人で何かを言い、いきなり俺の腕をつかんだ。
「お前、もしかしてアリスか!」
「そうだけど・・・アクセントが違う。俺の名前はAliceじゃなくて、有須」
 こう文にしてしまうと解りづらいことこの上ないけど、要は「ア」じゃなくて「ス」にアクセントを置いてほしいのだ。アからスに向かって、下っていくのではなく、上っていってほしい。言ってて自分でもよくわからなくなってきた。それでも俺のあだ名は女性の名で知られるあの「Alice」だけど。
 人の話を聞いていたのか、興味すら抱く話題ではなかったのか、彼はすぐさま近くにある木の枝を拾った。
「名前じゃない。能力の話だ」
 木の枝で地面に「外来者」と書いた。その上に「アリス」と付け足す。俺はその様子を見て、思わず安堵した。変な空間ではあるが、日本語も通じているし、文字も読めるので一応日本ではあるらしい。
 文字を書き終わった彼が顔をあげた。その顔はいたずらに笑っている。その説明をしてくれるのかと思ったが、彼が言ったのは予想外の言葉だった。