その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「獅子丸は、不屈の男だからな」
なんだそのカッコいいフレーズ。あきらめ人生を送っている人間が、憧れる言葉じゃないか。
でもそのフレーズとは逆に、鷲尾は嬉しそうに笑っていた。いや、嬉しそうっていうよりは、こう・・・、カモを見つけた時のような笑い方だ。不敵とか、悪どいとか、そんな表現がふさわしいのかなぁと思う。
つまり。
「くそっ!強ぇなこいつ、でもオレはあきらめねぇぜ!」
とかいう感じじゃなくて、
「こんなに強い奴と戦えるのに、逃げるなんてふざけんなよ!」
的な感じだ。バトルフリークって、こういうやつの事言うんだろうか?喧嘩好きにも近い気がする。どっちも同じ意味な気もしなくもない。どちらにせよ、これを諦め知らずと言っていいものか?
羊元の周りには、力なく倒れる兵隊たちがたくさんいる。一人でここまで戦ったのかと思うと、外見が中学生なだけについ感心してしまう。
「あんた、そんなに弱かったかね?」
「柳崎とは知り合いだけど、面と向かって戦うのは初めてなもんでね」
へ?
とぼけた顔をしていると、隣で笑い声がした。笑われたのかと見ると、その目は鷲尾の方を見ている。
「柳崎はおろか、対戦すら慣れていないだろう」
考えてみれば公爵夫人に捕まっていた時も、あまり抵抗している節はなかった。実際、メイド服が何度か様子見に行っていたようだったが、彼女は無傷だった。攻撃していない証拠だ。そう考えると、バトルフリークというのも少し違う気がする。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷