その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「私は見たいのだ、最前線で、『戦い』を知らぬこの『アリス』が、どのようにこの『戦争』に関わるのかを!」
ただひたすらの好奇心。理由としては、宝亀らしい。会って間もなくてもそう感じるのだから、昔から宝亀を知っている連中は、納得せざるを得ないセリフだったのだろう。
柳崎は身を震わせると、再び本を手に取り、片手でグイと持ち上げた。やばい。卵、卵は何処に行ったっけ?俺どこに置いた?
「アリスッ」
鷲尾の声に振り向くと、何かが飛んできた。卵だ。さっき柳崎を助けるために、投げ出してしまったらしい。
「ってか、卵を投げるな!」
生卵だかゆで卵だか、もしかしたら温泉卵かもしれないけど、とにかく投げてぶつかったらどうすんだ!
慌ただしく手を動かして、結局バンッと両手で挟んでしまった。その瞬間、卵がペタンコになる。顔が青ざめてる、と実感したのは初めてだ。本当に血が逆流したような気持ちになる。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷