その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「なんで助けてくれんの?」
契約なしの手助けは違反だ。犯罪だ。俺のせいで宝亀が犯罪者になったら、後味が悪い。
「従属したからに決まっているだろう。『提供』に主の意思は関係ない」
あ、そういやあったね、「提供」って。もう「契約」しか頭に残っていなかった。
相当間抜けな顔をしている俺の頭に、ポンと手が置かれた。腕を追いかけると、鷲尾(わしお)が笑っている。
「よっしゃ、じゃあオレも仕えるか」
柳崎が剣を振り下げ、宝亀の剣と擦れて不快音を奏でた。ぞっと鳥肌が立つ。俺こういう音に人一倍弱いんだよ。
「グリフォンが誰かに仕えることは驚かない。先代も赤に仕えていたしな」
赤と白の戦争は長いらしい。少なくとも、殺すのをためらわなかった「アリス」がいた時代の「先代」が生きていた時からあるわけだ。推察されるところの「先代のアリス」は戦争があった時代なわけだから、日本人であればもう六十年だか七十年だか前の話になる。そんなに長く続いてるわけ?この世界の戦争は・・・
「だが!」という柳崎の言葉で我に返った。
「亀まがいは誰にも仕えないことを信条としていたはずだ!平等な立ち位置にいると・・・」
「今の時代の何が平等だ」と嘲笑い、宝亀は続ける。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷