その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
暴走するドラゴン
黄色い空で煌々と輝いていた太陽が、やっと南頂を通り過ぎた。後六時間もしないうちに、きっと太陽が沈む。そうしたら、この戦いは一時休戦となるわけだ。だから、あと五時間、とにかく動き続ければいい。とにかくとか、そんな甘っちょろい表現が不似合いなことは解ってる。楽な話じゃない。
さて。現実逃避もこの辺にしておこうか。俺的には今いる世界こそ夢の世界な気がしてならないんだけど、実際はこっちが現実だ。
茫然としていると、後ろから柳崎(りゅうざき)が言葉を漏らす。
「な・・・、亀まがいが、誰かに仕えるだって?」
「亀まがい=宝亀(ほうき)」という方程式がすぐ出て来なくて、誰だっけと少し考えてしまう。
柳崎は立ち上がると、腰にさしていた剣を抜いた。フェンシングとかで使うような、ああいう剣だ。「ふぇんさー」だっけ?なんかのRPGに出てきた武器で、そういう名前だったような・・・。
あれ?何かこっちに向かっている気が・・・。気のせいかと思っていたけども、やっぱりそうじゃなかった。柳崎が素早い動きで俺に向かって剣を突き出す。速い。避けきれない。そう判断し、意味もなく腕を顔の前でクロスさせて、目をつむってしまった。
キンッ
甲高い音がしてハッとする。そう言えば、警棒持ってたんだっけ?でも警棒は天に向かって伸びている。バカな使い方だ。これにぶつけるほど、柳崎の剣は空に向かっていなかった。
じゃあ何の音だ?なんで俺は無事なんだ?恐る恐る目を開けると、宝亀が腰に携えていた細身の剣で、柳崎の剣の切っ先を受けていた。本を手にしていない今、彼女の「怪力」は無効になっているようだ。宝亀が何時こちらに回ったのかは解らない。それに・・・
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷