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空野 いろは
空野 いろは
novelistID. 36877
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安全な戦争

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(状況終了)

 沢村がつぶやいたことで、俺はやっと我に返ることができた。

「全員死んだか?」

(ええ、見た限りでは)

 俺もモニターに目を凝らす。そこにいるゲリラ集団に、ピクリと動く者はいない。

 だが俺は、見たくないものを見てしまった。彼らの一人が持っているものに、見覚えがあったからだ。それは携帯無線機が形としての意味を持っていた時代の生き残りの代物――携帯電話だ。折り畳み式の、旧世代の通信端末。

(くそ!)

 沢村も気が付いたのか、盛大な舌打ちをした。

「司令部、敵は通信端末を所持していた。周囲に異変は?」

《今確認中だ。スティングバグを呼び戻せ》

(言われなくともそうする!)
 沢村が怒声を張り上げる。

 かつてヨーロッパ圏の連合軍が最大限の損害を被った戦闘があった。彼らはゲリラ部隊を過小評価していたせいもあったが、通信端末を用いた効果的な戦術を編み出していたのだ。今までのゲリラと言えば、所構わず撃ちまくり、無謀という言葉を知らないような振る舞いをするのが主だった。

 しかし彼らが遭遇したゲリラは戦い方が違った。しっかりと通信設備を作り、部隊間で通信ができるように整備された環境に連合軍を誘い込み、二個中隊――三百人を全滅させることに成功したのだ。

 これはもう、連合軍に心理的な打撃を与えた。徹底的な意識改革を迫られるようになり、兵士たちもそれに伴って訓練内容が一新された。対処行動のマニュアルも用意された。

《敵が接近している。その数、百》

 やはり……か。ここら辺は、そんな頭のいいゲリラが出没するところだった。ただ単に攻撃を仕掛けてくるわけじゃない、波状攻撃という言葉を知っている敵。

「煙幕を張れ! スティングバグは地図上に示されている敵のところへ向かわせろ」

 俺は沢村に落ち着けと言った。モニター群を見ればこっちの勝利は確実だ、と。

「柏木は右上の集団に近づけるように戦車を動かせ! そこからやる」

 地図上の集団がこちらに向かってくる。モニターには司令部から送られてくる信号が地図となって表れている。右上の集団の進行速度が一番速く、数も多かった。

(今までどこに隠れてたんだ!)

 柏木も怒声を発しながら戦車を動かす。

(スティングバグの機銃弾が残り少ない)

「構わない! 撃ち尽くすまで使え! 使い終わったら砲弾があるだろう!」

 スティングバグのモニターに、敵の集団が見えてくる。一斉に機関銃を打ち鳴らすスティングバグは、さっきの集団のように順調な仕事はできなかった。少しずつ減っていく銃弾数に、舌打ちをする沢村。

「落ち着け、落ち着くんだ。砲塔を回せ。敵に照準を合わせろ」

 幸い、スティングバグを操作するのに特別なコントローラーが必要ないため、砲撃の照準を合わせながらでも大丈夫な設計になっている。

「敵は五キロ先。大丈夫、十分に射程距離内だ。お前ならできる」

 無線に声を吹き込む。戦車が止まり、砲身がゆっくりと動き、敵を射程に収める。

(攻撃用意、よし)

「撃て!」

 戦車全体を揺らすような轟音が轟く。それはもはや音というより衝撃波で、もし間近で花火を打ち上げる機会を得たら、似たようなことが起きるかもしれない。

(次弾装填)

 自動装填が主流になった戦車では、人が手動で弾を装填する作業が行われなくなっていた。

 撃ち出された砲弾は放物線を描いて敵の集団に向かっていく。スティングバグの映像が途切れたかと思うと、しっかりと計算されつくして発射された砲弾が着弾する光景が移る。計算の誤差は数センチ程度で、着弾した個所では戦闘が行われなくなった。

「次は後方、六時の方向だ」

 砲塔が百八十度回頭する。しっかりと筒先が敵の集団に向けられ、向かってくる敵に合わせ計算が開始された。

《敵集団が八時の方向から急接近している。敵はバイクに乗っているぞ》

 計算が終わり、角度調整が終わった時、司令部から通信が入った。バイクを使った敵が迫ってくる……? 一瞬、何を言われているかわからなくなり、次第にそのことが理解できるようになると俺を含め皆が慌てだした。

(なに!?)

(え!?)

《だが、まだ距離が開いている。まずは後ろにいる敵を倒せ》

 司令部から冷静な声が届く。彼らは目の前で戦闘を行っているわけではないので、それなりに頭が冷えた状態で命令を出してくる。だから現場で戦っている俺たちと比べて格段に指揮能力が高くなる。

「了解した。沢村、撃て」

 二発目の砲弾が発射される。
 すぐさま次弾が装填され、バイクで向かってくる連中に照準を合わせる。

《敵は機動力に優れている。だが戦車の敵ではない。冷静に、一台ずつ撃破しろ》

 司令部の声が冷静ながらも焦りを持った声になる。それほど予想外のことが、今ここで起こっている。

「冷静になれ、沢村。お前ならできるさ」

(ああ)

 沢村は興奮気味だった。鼻息は荒く、過呼吸になっているんじゃないかと思うほどだ。

「撃て!」

 三発目の砲弾が発射される。スティングバグは遠くにあるため使えない。なので外部カメラを使って望遠レンズで視認した。

 バイクに乗ってこちらに向かっているのは四台。先ほど噴射したスモークガスのせいで視界は思うように晴れない。おぼろげに見えるバイクはある程度間隔をあけて走行している。それを見ると戦車がいることは自前のことになっているようだ。

 先ほど放たれた砲弾が一台のバイクに直撃する。その衝撃に巻き込まれてもう一台のバイクが横倒しになると、残った二台のバイクは蛇行しながらこちらに向かってきた。

(次弾装填!)

「右のバイクだ! 撃て!」

 蛇行しながら進むバイクは、まるで砲弾の軌道を読んでいるかのようによける。着弾の衝撃なんてお構いなしに、こちらへ爆走してくる。まるで死を追いかけている死神のようだ。何も恐れず向かってくる姿に、レンズを覗きながらぞっとした。

(次弾装填!)

 この戦車は一分間に二十発もの砲弾を撃つことができる。彼らが蛇行して追いかけてくるとするなら、受けて立ってやろうじゃないか。その死を追いかける姿は気に入った。俺もどこまでも死を追い続ける軍人だ。老若男女は気にしない。今は殺意を撃ち合い、存分に生きることを楽しもうじゃないか。

「撃て!」

 四発目に放たれた砲弾は、見事バイクに命中した。俺から見て左側にあったバイクはさらに加速してこちらに向かってくる。距離がだんだんと縮まる。百メートル以内になるともはや目と鼻の先だ。

(次弾装填!)

「撃て!」

 これが最後だ。放たれた砲弾がバイクに向かっていく。しかし砲弾はバイクを避けるように通過し、バイクがさっき通った砂漠のど真ん中に突き刺さり、大きく炎上する。
 
 追いつかれる……。
 
 敵が何の目的を持って戦車に向かってくるかはわからない。レンズを覗いただけではわからないが、もしかしたら対戦車兵器を懐に隠しているのかもしれない。もう装填を待っている時間はない。
 
作品名:安全な戦争 作家名:空野 いろは