安全な戦争
俺には今、二十四人の命を奪う権利が与えられている。しかもそれは軍という組織の上層部から与えられた任務で、拒否をすることはできない。
俺は当然、然るべき命令を下さなければいけないだろう。今この瞬間に生き、何年後かには父や母になる人間を殺すことを。彼らにも夢や希望があるだろう。柏木や沢村と同じように、きれいでかわいい女の子たちと知り合いになりたいだろう。それは俺も同じだ。死にたくない一心でここにいる。そのことに、疑問を感じたことはない。
ただ……こうして見たいだけだ。モニターに映っている人を殺すということは、ゲームとあま大差はない。戦場に来る前、日本でも少なからずプレイした。時々わからなくなる自分がいる。だから俺は、こうしてこれから殺す人間をまじまじと見つめるのだ。
(目標地点に到達しました)
柏木が言った。こういった戦闘が行われる前は、必ず六キロ手前で停止しろと言われている。戦闘のマニュアルに従ったまでだ。特に何の感情も持ち合わせていない。
戦車が停止したところで、モニターに映っている男が周りをきょろきょろと見まわし始めた。どうやら俺たちの存在に気付いたらしい。戦車は音が大きいからな。野生の戦士は耳がいい。彼はハンドサインを送って戦闘準備に入るように指示している。
俺はその一つ一つが克明に見られる。手を取るように、彼らが何をしているのかがわかる。
(何をしている?)
司令部から連絡が入った。さすがに遅すぎると思って連絡を入れたのだろう。俺はその声に促されたように、はっきりと言った。もう逡巡する時間は終わりだ、と。
「攻撃開始」
言ったとたん、画面に白い閃光がほとばしる。弾丸が撃たれたときに発する淡くて強力な光だ。そのつらなりは四方から二十四人を殺戮していく。正確に撃たれる機銃は一人の反撃も許さない。コンピューター制御によって支えられたシステムは効率的に仕事をこなしていく。一人、また一人と血を吹き出しながら倒れていく。俺はその光景を見つめながら、戦闘が終わるその瞬間までモニターにくぎ付けになっていた。