安全な戦争
俺は思わず上部ハッチをあけた。目の前にある十二.七ミリ機関銃――キャリバーを手に取り、初弾を装填する。そのままバイクに照準を合わせると――
バイクは戦車を無視して通過していく。俺はとっさに振り向く。バイクは急停車し、こちらを見上げる。フルフェイスのヘルメットなので表情はうかがえない。肩がゆっくりと揺れたのを見た俺は、そう判断した脳を信じられなかった。
笑っている……?
ライダーが不敵な笑いを見せた時、耳の骨伝導をつんざく無線が耳に入った。
《対戦車ミサイルだ!》
俺はその瞬間、言われたことを理解しないまま上部ハッチから抜け出した。長年の軍隊生活で身に着けた条件反射だった。もしかしたら生きたいと願う本能がそうさせたのかもしれない。
俺は上部ハッチから転げるように出ると、その刹那、強大な爆炎が視界いっぱいに広がり、爆風に吹き飛ばされた。
ゴロゴロと何度も転がり、空と大地が回転ドラムのように回る。俺は口の中に砂埃を大量に含み、回転が終わった後に見た人影を見て、俺は声が出せず絶句した。
目の前にいるフルフェイスのライダーは手を振り、水筒をこちらに放り投げた。
俺のことを殺さないのか……?
無様にも水筒を受け取った俺を見て、ライダーはバイクに跨った。
「じゃあね」
透き通った声を聴いた俺は、そのまま疾走して行くバイクに、携帯していた拳銃を向けることを忘れていた。