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空野 いろは
空野 いろは
novelistID. 36877
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安全な戦争

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 俺は思わず上部ハッチをあけた。目の前にある十二.七ミリ機関銃――キャリバーを手に取り、初弾を装填する。そのままバイクに照準を合わせると――
 バイクは戦車を無視して通過していく。俺はとっさに振り向く。バイクは急停車し、こちらを見上げる。フルフェイスのヘルメットなので表情はうかがえない。肩がゆっくりと揺れたのを見た俺は、そう判断した脳を信じられなかった。

 笑っている……?
 ライダーが不敵な笑いを見せた時、耳の骨伝導をつんざく無線が耳に入った。

《対戦車ミサイルだ!》

 俺はその瞬間、言われたことを理解しないまま上部ハッチから抜け出した。長年の軍隊生活で身に着けた条件反射だった。もしかしたら生きたいと願う本能がそうさせたのかもしれない。

 俺は上部ハッチから転げるように出ると、その刹那、強大な爆炎が視界いっぱいに広がり、爆風に吹き飛ばされた。

 ゴロゴロと何度も転がり、空と大地が回転ドラムのように回る。俺は口の中に砂埃を大量に含み、回転が終わった後に見た人影を見て、俺は声が出せず絶句した。

 目の前にいるフルフェイスのライダーは手を振り、水筒をこちらに放り投げた。

 俺のことを殺さないのか……?

 無様にも水筒を受け取った俺を見て、ライダーはバイクに跨った。

「じゃあね」

 透き通った声を聴いた俺は、そのまま疾走して行くバイクに、携帯していた拳銃を向けることを忘れていた。

作品名:安全な戦争 作家名:空野 いろは