安全な戦争
ああ、と俺は泣いた。
手紙を読みながら泣いている俺を見て、隣に座ってた奴はたいそう驚いたらしい。でもそんなこと構わなかった。ぽたぽた落ちてくる涙から手紙を濡らさないようにすることで精いっぱいだった。
翌日、極力少なくした私物をまとめてバックに詰め込み、現役引退間近のC‐2輸送機に乗り込んだ。後部ハッチがしまる光景を見つめながら、帰ってきてもいいのだろうかと自問した。
今まで帰る家なんか必要ないと思っていた俺だ。手紙を読んだことくらいで心変わりし、ケロッとしている俺を見て叔父夫婦はどう思うだろうか。手紙の文面通り、俺を迎えてくれるだろうか。
後部ハッチがしまり、闇が訪れた。機内はランプが点灯して明るくなった。機体が動き出し、進行方向に向かって座っている俺は慣性の法則に従ってシートに押し付けられた。慣れてきたころに浮遊感が訪れ、窓の景色が斜めになった。
窓の向こうに日本がある。俺が生まれ、育ち、帰るべき場所がある俺の国。俺は護る人がいるから戦地に向かう。太平洋戦争中の若者の気持ちは今となってはわからないが、俺と同じ気持ちかもしれないな、と感じた。
「帰ってもいいのかな……」
急に家が恋しくなった。今までホームシックなどというものを自覚していなかった俺は、背中に寒気が走りじっとしていられなくなった。
帰りたい。帰ったらいろんなことをしてみたい。叔父や叔母に、ありがとうと言いたい。
どんなにさげすまれてもいい。帰れるなら何でもしようと思った。そして俺のほかに帰りたいと思っている奴を守りたいと思った。一緒に戦って、一緒に日本に帰る。それが俺の任務だと思った。これから様々なことをするたび、今日のこの日を思い出そうと誓った。
だが帰る前に、やることがある。叔父や叔母には悪いが、仲間をきっちり見守ってから俺は帰ってきたい。そうしたら、胸を張って帰れる。俺はこんなにも多くの友人を守ったと。どんな虐殺行為に手を染めても構わない。仲間を守り、帰れるためなら泥水をすすってでも帰ってやるさ。