安全な戦争
二章
避暑地。
誰が最初にそう呼んだかはわからないが、連合軍の駐屯地では隊員からそう呼ばれている。
何しろ駐屯地の周りは全て極暑の砂漠地帯である。蛇口はひねり出せばきれいな水が出てくる環境は、オアシスと呼んでも差し支えはないだろう。また一歩施設の中に入れば冷房が効いていて、二十一世紀からの悪しきマナーでもある「冷房は二十八度設定!」の文字が壁に貼られている。しかし施設内は、そんなもの誰が守るんだ! と言わんばかりに施設内は二十四度と、女性自衛官が膝に毛布を敷くレベルである。
というわけで、ここは避暑地と呼ばれてはばかれない場所なのである。ちなみに食料はアメリカ側の備蓄も含めて補給なしで二週間は戦える仕様になっている。ここを避暑地やオアシスと言って何が悪いんだろうか。
さて、俺はそんな駐屯地に帰ってきた。輸送用ヘリの中でデルタの隊員たちに押さえつけながら。当然、軍用人工衛星のモニターで事の一部始終を見ていた幹部たちは俺の生還を祝う前に、お怒りの言葉を口々に唱えた。あれやこれや、自衛軍法がどうのこうの、指揮能力についてとかなど、査問会にも似たお説教タイムから解放された俺は、付属の自衛隊病院にすぐに入院させられ、様々な検査を受けさせられながら書類の束を手渡された。
……当分は書類仕事をしなくてはいけないらしい。まったく、俺は病人だぜ? 勘弁してもらいたいね。