安全な戦争
降下のタイムが一分を切った。ステルス輸送機の後部ハッチがゆっくりとあけられ、冷たい風が突風となって機内を吹き荒れる。戦車も揺れるような強風に、俺は降下準備が完了したのだと思ってシートベルトを着用した。
(二曹)
柏木の声が聞こえる。突風の音にも負けない骨伝導マイクは、しっかりと彼の声を届けていた。
「なんだ?」
(これが最後の降下ですね)
「そうか……お前は最後なんだな」
(はい。これでランデブーするのも終わりですね)
「言ってくれるな。俺はお前と恋人のランデブーを待ってるぞ」
無線だから顔は見えないが、にっこりと笑う柏木の姿が見えるような気がした。狭い車内の中では、互いに顔を突き合わせることもままならない。砲手の沢村とは顔を突き合わせることができるが、回転塔の下で操縦をやっている柏木とは戦車を降りるまで顔が見られない。
《降下十五秒前》
「よしみんな! 柏木を送り出してやろうぜ!」
ガクン、という重力がなくなる感覚を味わうと、投下されたことがわかる。
戦車は完全に密閉されていて、外をうかがい知ることはできないが、きっと快晴のはずだ。こんないい日は、他にはないはずだからな。