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空野 いろは
空野 いろは
novelistID. 36877
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安全な戦争

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 目を開けるとそこは、満点な星空だった。驚くほどきれいで、天の川がくっきりと見ることがで
きる。
 俺はそのまま視線をスライドさせ、辺りを見回す。広場の焚火は夜になっても絶え間なく燃え続
けているようで、そこかしこにいる村人たちを浮かび上がらせていた。
 俺が半身を起して装備のチェックをしていると、周りから美しい歌声と楽器の音色が聞こえた。
祭りも終盤らしく、参加している村人もまばらだった。
「おお、起きたかの?」
 村長が歩み寄ってきた。火に照らされる彼の顔を見ると、疲労の色が浮かんでいた。
「お前さん、祭壇から落ちたまま、気絶しておったぞ」
「どれくらい、ですか?」
「うーむ。八時間ぐらいかの?」
「そうですか」
 ここへ漂ってくる音色は、祭りの時とは違ってとても美しい。ミュージカルを見たことはないが、
楽器と声楽が見事な調和をみせている。
「アンナじゃよ」
「え?」
「歌を歌っているのは、アンナじゃ。彼女は毎年、この日の為に練習しておっての、祭りは誰より
も張り切っておって、夜遅くまで居残り続けているのじゃよ」
「……きれいな歌声ですね」
「のぅ。彼女は誰よりもこの村のことを想ってくれておる」
 俺は歌っている彼女を見た。目を細めてみると彼女だけが映り、歌っている姿がとても神秘的で
魅力的だ。
「アンナが、お前さんのことを話しておったぞ」
 俺は村長のほうを向いた。彼はただじっと、炎に浮き上がる美しい人影を見つめ続けていた。
「祭壇から落ちて気絶しておった時、そっとわしに話しかけてきてな。ひどいことを言ってしまっ
たのかもしれない、と相談に来たのじゃよ。わしはただただ聞いておっただけじゃが、お前さんが
気絶するところを見て、たいそう慌てていたのぅ」
 そんなことがあったのか。意外といえば意外で、そんなに俺のことを気遣ってくれたのか。
「話したんですか? 俺がやっていることを」
 村長はゆっくりと頷いた。
「そうですか」
 アンナは一体、俺のことをどう思ったんだろう。軍人だとわかっている時点でそれなりに予想し
ているはずだが、今度会ったときは、助けてもらった時のような表情を見せてくれないかもしれな
い。
「お前さん、楽器は演奏できるのかの?」
「え? ま、まぁ、できなくはないですけど」
「何ができるのじゃ?」
「えーと……、ハーモニカならできます」
 俺は小学生のころ、お母さんの趣味もあってハーモニカを習っていた。家族の葬式を境にハーモ
ニカに触れる機会はなかったが、昔の勘を取り戻せるだろうか。
「ハーモニカならあるぞ」
「え? あるんですか?」
「そう。日本の軍人がこの村を訪れた時に、土産として置いていってもらっての。受け取ったはい
いが、使うものがおらんのじゃ」
「昔の自衛隊が……」
「うむ。あそこにあるボックスの中に置いてあるはずじゃから、聞かせてくれ」
 お安い御用だ、とは言えなかったが、俺は立ち上がって村の中央に向かっていく。俺は自然と歩
く足に驚きを覚えつつ、歌声を響かせている女性に近づいていった。
 
作品名:安全な戦争 作家名:空野 いろは