安全な戦争
「で、でも、俺は知っているだけです。何も出来ない、ただ知識を披露しているだけの……」
「そうじゃ、知っておるだけでいい。何かをしようと、考えなくてもよいのじゃ。言っておくがお
前さんは、今は何もできない無力的な人間じゃろう?」
俺は口をつぐんだ。その通りだ。
「なら、なおのことじゃ。余計なことはしないほうがいい。それに……、わしにもばあさんには死
ぬ瞬間まで迷惑をかけっぱなしじゃった。死ぬ間際に言った言葉が、わしが死んだらお前さんは何
もできなくなる、だったかの。わしは他の村の者もおる、と言ったが、それを聞く前に死んでしま
った。あの世へ行く手土産に、下手くそな言葉を送ってしまったかのぅ」
村長はじっと火を見つめていた。俺も同じだ。ろくに言葉をかけられないまま、いろんな奴を見
殺しにしてきた。家族や仲間を殺しておいて、俺は何一つできやしない。
「俺は知っているだけです。何もするなとおっしゃるなら、俺はいったい、これからどうやって生
きていけばいいんですか」
「フム……。それはわしには解くことはできん。その答えは決して、わしでもアンナでも、この世
界の誰ものでもない答えが必要なのじゃ。たとえわしが今、ここで答えを教えられる立場だとして
も、それを知ったお前さんは誠の納得はできないだろう」
「誠の……」
「そう……。わしにもわからんのぅ。どうすればわしの答えが出てくるのか。七十年生きておって
もな、人生の答えなんかでないんじゃよ。せいぜい頑張るんじゃなぁ」
村長は最後の薪を炎の中に入れ終わると、背を向けた。
「さ、わしはこれから新しく薪を持ってこなければならん。手伝ってくれんか?」
「は、はい」
「うむ。もうそろそろ、夜が明けるからのぅ」
東の空は、もう白みかけていた。