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空野 いろは
空野 いろは
novelistID. 36877
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安全な戦争

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「嘘だろ……?」
 目の前には複数匹の豚がいる。ブヒブヒと鳴きながら、糞尿を垂れ流して歩き回っている。俺は
サムエルからクワを渡され、そこにいる豚に餌を上げろと指示された。
『餌をやったら、外に置いてある桶に井戸で水を満たして与えろ。二回ぐらい往復すれば何とかな
るから、頑張ってやってくれ』
「ふざけやがって」
 思わず罵倒の声が漏れる。豚に餌を上げる作業はさほど嫌ではないが、その匂いに卒倒しそうに
なる。とにかく臭く、ハエが体のいたるところに張り付き、耳のそばを通過するたびに集中力が削
がれる。
「くそったれ!」
 何とか終わらせた作業も、一晩ずっとやらされた感じがする。手や腕、足に匂いがこびりつき、
戦闘服が異臭を放っている。一刻も早く脱ぎたいところだが、任されてしまったからにはやり遂げ
るしかない。
 外に置いてある桶はポリエステルの容器だった。しっかりと持ちやすいようにとってが付いてお
り、基地内で使われる灯油タンクと変わりはなかった。
「くそ……」
 空容器を持ち、村のはずれにある井戸に向かうと、そこにはくみ上げ式のポンプがあった。井戸
自体は日本では絶滅したに等しいもので、俺が災害用のものを使ったことがあったのは幸いだった。
日本ではもはや映画の中でしか語られない時代の遺物だ。
 ポンプでくみ上げていくと、空のポリタンクに濁った液体が満たされていく。日本のように蛇口
をひねれば殺菌消毒されたきれいな水が出てくることはない。今でも昔でも、地球上ではこうした
水を飲むほうが一般的で、戦場でもきれいな水を飲める俺にとっては、かなり抵抗がある代物だ。
 水で満たしたポリタンクを片手で持ち上げると、家畜小屋に向かって歩いていく。重たい荷物を
持つことは苦労するが、さほど大変なことではない。日々の訓練の中で重たいものを運ぶのは日常
茶飯事だからだ。
 訓練というのは生き残るためにするものだ。重たい荷物を持ち上げたり、三十キロメートル走っ
たり、腕立て・背筋・腹筋のトレーニングをそれぞれ一日千回やったり、二十キログラムの装備を
背負って五十キロ歩いたり。それぞれの訓練は非常に大切で、死なないためにやる。できなければ
死ぬだけだ。
 だから俺は言われなくても訓練を毎日やる。こうして水を運んでいるときも、ダンベルを上げる
のと同じように、肩まで上げる・下げるを繰り返している。
 水を家畜小屋まで運び、ドラム缶を半分に切ってある水飲み場にそそぐ。もう片方のドラム缶も
水飲み場として使われているため、サムエルに言われた通り、もう一度井戸に行かなくてはならな
い。
「よし」
 今度は全速力で、井戸まで走っていった。

作品名:安全な戦争 作家名:空野 いろは